| 岸本 泰司 (キシモト ヤスシ)
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近年「思い出」を巡る心理学的研究が、自己認識の発達や社会的文脈との関係から注目されており、医療現場ではナラティブ医療の文脈から臨床実務と結びつく事例も増えてきました。こうした背景を踏まえ、動物モデルを用いて、記憶を単なる情報保持の過程としてだけでなく、社会的文脈や自己表現との関連において捉える、新たな神経科学的アプローチを模索しています。
 以前より私たちの研究室では、記憶の形成・保持・想起に関わる神経基盤の解明を中心テーマとして掲げてきました。特に、瞬目反射条件づけとよばれる運動学習系課題を用いて、記憶のシナプス・分子基盤を詳にしてきました(Cells 2022, Sci. Rep. 2019, Cell Rep. 2017)。
 並行して、自閉症スペクトラム障害(Neuron 2016)、頭部外傷(Behav. Neurol. 2019)、プリオン病(Sci. Rep. 2020)、プレセニリン2変異(Neurosci Lett 2016)など、記憶や学習の異常を伴う神経精神疾患の分子メカニズムの理解にも取り組んでいます。さらに、内在性カンナビノイド受容体の生理機能( J. Neurosci. 2006, Front Behav Neurosci 2015)や、プラセボ反応の動物モデルの開発、薬学部の研究生産性の計量書誌学的分析など、雑多に「記録」と「記憶」の周辺領域にアプローチしています。